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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)212号 判決

主文

原判決を破毀する。

被告人清水唯夫、同中畑政夫を各懲役四月に處する。

理由

被告人清水唯夫、同中畑政夫両名辯護人平尾賢治、同大山菊治上告趣意第一點は「原判決ハ法令ノ適用ヲ誤リタル違法アリ原判決ハ判示第五事実即ち被告人両名カ粳精米七斗五升及粳玄米二斗ヲ岡山懸二川村カラ勝山町迄貨物自動車ニテ輸送シタル事実ニ付食糧管理法第九條第三十一條同法施行令第十一條ノ四同法施行規則第二十三條ノ六刑法第六十條ヲ適用シタリ然レトモ右施行令第十一條ノ四ニ依レハ農林大臣ハ主要食糧ノ消費又ハ使用ニ關シ必要ナル制限ヲ爲シ得ルモ右施行規則第二十三條ノ六ハ本件輸送ヲ制限シタル趣旨ノ規定ニアラサルヲ以テ該法令ニ依リテハ右判示事実ヲ處罰シ得サルモノナリ故ニ原判決ハ法令ノ適用ヲ誤リタル違法アリ破毀ヲ免レサルモノナリ」といふにある。

原審は判示第五事実に對して所論摘録の法條を適用所斷したのであるが、米麦等は法定の除外事由ある場合を除く外、これを輸送し得ない旨を定めている規定は、本件犯行當時に於ては昭和二十二年十二月三十日農林省令第一〇四號による改正前の食糧管理法施行規則第二十三條ノ七であって、原審は明かに法令の適用を誤ったもので論旨は理由がある。

同第二點は「原判決ハ公判廷ニ於テ證據調ヲ爲ササル證據ヲ以テ裁判ヲ爲シタル違法アリ原判決ハ判示證據記載ニ依リ明カナル如ク被告人清水唯夫ノ前科調書ノ記載ヲ證據トシテ判示事実認定末尾ノ同被告人ノ前科ニ關スル事実ヲ認定シタリ然レトモ原審公判調書ニ依レハ該前科調書ハ公判廷ニ於テ被告人ニ呈示シ又ハ讀聞カセラレタルコトナキヲ以テ原判決ハ公判廷ニ現ハレサル證據ニ依リ被告人清水唯夫ノ前科ニ關スル事実ヲ認定シタル違法アルモノナリ」というにある。

原審公判調書によると被告人清水唯夫の前科調書につき證據調が施行されなかったことは所論の通りであるが、同被告人が公判廷に於て自分の前科につき詳細供述していることも明瞭である。そして前科の事実は刑事訴訟法第三百六十條第一項の「罪トナルベキ事実」ではないのであるから、必しも公判廷で證據調を經た證據により、これを認定するを要しないのである。従つて原審が前記の資料にもとづいて累犯にかかる前科の事実を認定し、この事実により累犯の加重をなしたのは違法ではない。よって論旨は理由がない。

同第三點は「原判決ハ被告人ニ不利益ナ唯一ノ證據カ被告人ノ自白ニテ處罰セラレタル違法アルモノナリ原判決ハ被告人中畑政夫ニ對シ判示第二及同第四ノ犯罪事実アリト認定シテ處罰セラレタリ然レトモ判示援用被告人中畑政夫ノ公判供述ニ依リテモ明カナル如ク右判示事実中同被告人カ營利ヲ目的トシタルモノナル點及買受ノ米穀カ小林春市ノ生産シタルモノナル點ニ付テハ被告人中畑政夫ハ公判廷ニ於テハ之ヲ否認シ居リ該事実ニ付テハ原判決援用證據ハ同人ニ對スル司法警察官ノ聽取書及検事ノ聽取書供述記載ノ外他ニ何等ノ證據存在セサルモノナリ尤も右後段ノ事実ニ付テハ判示援用小林春市提出ノ始末書アルモ該證據ニ依リテハ中畑被告カ清水被告ト共同シテ買受ケタルヤ不明ナルヲ以テ該證據アルノ故ヲ以テ他ニ證據アリト爲スコトヲ得ス果シテ然ラハ右事実ニ付テハ判示援用證據タル被告人中畑政夫ニ對スル警察及檢事ノ聽取書供述記載ノ被告人ニ不利益ナル唯一ノ證據ニシテ且同被告人ノ自白ナルヲ以テ憲法第三十八條第三項刑事訴訟法ノ應急措置ニ関スル法律第十條第三項ニ違反スル違法アルモノナリ」というにある。

原判決理由擧示の證據によると、原審は、被告人中畑政夫の判示第二及び第四の犯罪事実中、同被告人の判示米穀の買受けが營利を目的としたものである點については、同被告人に對する司法警察官の聽取書中の供述記載により、又右買受けにかかる米穀が小林春市の生産したものである點については、同被告人に對する檢事の聽取書中の供述記載と小林春市提出の始末書の記載とを綜合して、これを認定したものであることは明かである。しかしながら、その餘の部分即ち第二の事実についていえば、被告人両名が共課の上小林春市から粳精米を統制額を超えて買受けたという部分は、被告人両名の公判廷における自白と、小林春市提出の始末書等を認定の資料とし、第四の事実についていえば、被告人中畑政夫が被告人清水唯夫から粳玄米を統制額を超えて買受けた部分は、被告人中畑政夫の公判廷における自白と被告人清水唯夫の判示のように、被告人中畑政夫に賣渡した旨の公判廷における自白等を認定の資料としていること原判決の證據説明からこれを知ることができるのである。要するに原審は「物價統制令」第三條違反の行爲については一個の犯罪事実の全體を當該被告人の檢事又は司法警察官に對する自白のみで認定しているのではないから、原判決は所論のように日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十條第三項に違反したものということはできない。論旨は理由がない。

以上説明したように、本件上告はその理由があるので、これに基ずき刑事訴訟法第百四十七條により原判決を破毀し同法第四百四十八條に従い、當裁判所において更に判決する。よって原判決認定の事実を法律に照すと、

被人清水唯夫の判示所爲中第一及び第二の買受資格がないのに生産者からその生産にかかる粳精米を買受けた點は昭和二十二年十二月三十日法律第二百四十七號による改正前の食糧管理法第九條、第三十一條、同年同月同日政令第三百三十號による改正前の食糧管理法施行令第十條ノ二に、第三の買受資格のない者に粳精米及び粳玄米を賣渡した點は前同食糧管理法第九條、第三十一條、前同食糧管理法施行令第十條、昭和二十二年十二月三十日農林省令第百四號による改正前の食糧管理法施行規則第二十二條ノ三に、第一乃至第三の統制額を超えて前記精米及び玄米を買受け又は賣渡した點は、物價統制令第三條、第四條、第三十三條第一號、昭和二十一年十一月一日物價廳告示第百五十一號、同第百五十二號に、第五の粳精米及び粳玄米を輸送した點は前同食糧管理法第九條、第三十一條、前同食糧管理法施行令第十一條ノ五、前同食糧管理法施行規則第二十三條ノ七にそれぞれ該當するところ、第二及び第五の共犯にかかる點については、刑法第六十條を適用し、右第一乃至第三の食糧管理法違反の各所爲及び同物價統制令違反の各所爲はそれぞれ犯意繼續にかかり、且つ一個の行爲にして數個の罪名に觸れる場合であるから、刑法第五十四條第一項前段、第五十五條、昭和二十二年十月二十六日法律第百二十四號附則第四項、刑法第十條により重い物價統制令違反の罪の刑に從い、これと第五の食糧管理法違反の所爲とは、刑法第四十五條前段の併合罪の關係にあり、なお、同被告人には前示前科があるので、刑法第四十七條、第五十六條、第五十七條に則り、同法第十四條の制限内において、同法第七十二條所定の順序に則り、重い物價統制令違反の罪の刑に累犯並に併合罪の加重をした刑期範圍内で同被告人を懲役四月に處し、

被告人中畑政夫の判示所爲中第二の買受資格がないのに生産者からその生産にかかる粳精米を買受けた點は前同食糧管理法第九條、第三十一條、前同食糧管理法施行令第十條ノ二に、第二及び第四の統制額を超えて前記精米及び玄米を買受けた點は物價統制令第三條、第四條、第三十三條第一號、昭和二十一年十一月一日物價廳告示第百五十一號、同第百五十二號に、第五の粳精米及び粳玄米を輸送した點は前同食糧管理法第九條、第三十一條、前同食糧管理法施行令第十一條ノ五、前同食糧管理法施行規則第二十三條ノ七にそれぞれ該當するところ、第二及び第五の共犯にかかる點については刑法第六十條を適用し、第二及び第四の物價統制令違反の所爲は犯意繼續にかかり、第二の食糧管理法違反の所爲と同物價統制令違反の所爲は一個の行爲にして數個の罪名に觸れる場合であるから、刑法第五十五條、昭和二十二年十月二十六日法律第百二十四號附則第四項、刑法第五十四條第一項前段、第十條により重い物價統制令違反の罪の刑に從い、これと第五の食糧管理法違反の所爲とは、刑法第四十五條前段の併合罪の關係にあるので、同法第四十七條に則り、重い物價統制令違反の罪の刑に併合罪の加重をした刑期範圍内で、同被告人を懲役四月に處する。

よつて主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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